児童虐待のニュースが流れる度に、早く親元から離れて児童養護施設で暮らして欲しいと思いますよね。そんな安全な場所と言われる児童養護施設に対して、ネット上では「ひどい」「職員 おかしい」という声があることを知っていますか?
実は、保護された子どもが暮らす『児童養護施設での生活』が問題になっているようです。この記事では、児童養護施設における「ひどい」「職員 おかしい」という声を検証し、そこから見えてくる問題点について解説します。
まだ多くの人に知られていない「児童養護施設をサポートする取り組み」についても紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
児童養護施設とは?
児童養護施設とは、保護者のいない児童や虐待されている子どもなど、社会的養護が必要な児童が暮らす場所です。
1歳以上の幼児から18歳未満の者が対象になっています。
(※場合により20歳まで延長可能)
※社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。(参照:厚生労働省「社会的養護」)
令和2年3月末時点で全国に612ヶ所の児童養護施設があり、約2万5千人の子どもたちが生活しています。
どんな子どもを受け入れているの?
親を失う、虐待を受けるといった「社会的養護」の対象になっている子どもは、4万5000人ほど。(2017年3月末時点)そのうち3分の2にあたる子どもが児童養護施設もしくは乳児院で生活をしています。
児童養護施設に入所している子どもは、
- 両親から虐待を受けた子
- 両親がいない子
- 何らかの理由で、親元で暮らせない子
このような児童です。
児童養護施設の目的
児童養護施設の目的は、入所している児童が健やかに発達できるように、家族的で落ち着いた環境で生活できるようにすること。家庭に代わる家として生活し、元の家庭に戻ることや児童の自立を支えています。
児童養護施設に種類はあるの?
保護が必要な児童は、下記の2種類の方法で養育します。
- 「施設養護」…社会福祉法人などが運営する児童養護施設
- 「家庭養護」…里親、養子縁組など家庭的な環境で養育する
①の施設養護には、以下の3種類があります。
大規模施設養護 | 10~100名の定員の多い児童福祉施設 |
小規模グループケア児童福祉 | 6人を原則にした小規模施設 |
地域小規模養護施設(グループホーム) | 地域に家(集合住宅可)を借りて生活する、6人定員制の養護施設 |
「ひどい」「職員 おかしい」という声を検証
児童養護施設における「ひどい」「職員 おかしい」という声は、どのようなことに対して言われているのでしょうか?過去には、児童養護施設内で起きた事件も報告されています。
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事件
職員からの性被害、入所者から刺されるといった残酷な事件もありました。「ひどい」「職員 おかしい」といった声の理由は、このような卑劣な事件が要因です。
入所していた子どもの体験談
児童養護施設で生活していた時の体験談がWeb上にありました。
児童養護施設の体験談
- 入所した途端、財布の中身は預けられ空の財布を渡された
- 毎朝ラジオ体操を強要され、年上の入所者からいじめを受けた
- 養護施設の職員は守ってくれなかった
- 放課後も外で遊べず、施設に友達が呼べなかった
児童養護施設の運営の仕方や、職員の対応に対して、「ひどい」「職員 おかしい」といった声があがっています。
職員に対する暴力
「子供から職員に対する暴力」も問題になっています。職員に対して、
- 黙れ
- 消えろ
- ウザい
- 話しかけるな
- 何も知らないくせに
- 大人は信用できない
入所した子どもはこのような暴言を吐く行為が多く、身体的暴力ではないものの、児童の怒りが言葉の暴力となっているようです。子どもたちが安全な場所で健やかに過ごせるように見守る施設がある中で、職員がこのような暴言を吐かれている現実があります。
「職員 おかしい」という口コミは、こうした子供たちの視点から発せられているものです。
児童養護施設の仕事が厳しい
児童養護施設では、子どもからの言葉の暴力だけではなく、以下のような問題も抱えています。
- 子供同士のいじめ問題
- 自傷行為
- 脱走
- 隠れての飲酒、喫煙
そのため、警察沙汰になるようなお子さんのケアもしなくてはいけません。日勤や宿直勤務で24時間子どものケアにあたり、メンタル面、体力的にも仕事が厳しいと感じる職員もいるでしょう。
このような職場環境の現状から、「ひどい」「職員 おかしい」という表現が出ています。
児童養護施設の問題点
ここまでは、「ひどい」「職員 おかしい」といった声を検証しました。入所している子ども自身が「ひどい」と感じている場合や、児童養護施設で働く職員が「おかしい」と思っていることが分かりました。
このような現状は、児童養護施設が抱える問題が影響しています。この章では児童養護施設の問題点を解説します。
虐待で入所する子どもが増えている
厚生労働省子ども家庭局「児童養護施設入所児童等調査の概要」(平成30年2月1日現在)によると、児童養護施設に入所している子どもの割合は以下の通りです。
- ネグレクト…63%
- 身体的虐待…41.1%
- 心理的虐待…26.8%
- 性的虐待…4.5%
令和2年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数は、20万5029件。前年度より1万1249件増え過去最多です。
このように、児童養護施設で問題が起こるのは、虐待で入所する子どもが増えていることも原因のひとつ。虐待を受けた子どもは、暴力で問題解決ができると認識し、言葉や身体的暴力で相手を支配しようとするケースが考えられます。
親から裏切られた経験は、職員に対する反発や口ごたえ、暴言となって表れることも。一般的な家庭よりも複雑な事情を持つ子が多いため、子供同士のいじめやトラブルに発展しやすいことも児童福祉施設が抱える問題です。
子どもの進路についての課題
児童養護施設は地域の中にあり、幼稚園や小学校に通いながら周囲の子と同じような生活をしています。厚生労働省の調査結果によると、中学卒業後の進学は約96%だが、大学進学率は10%と進学率が低いのが現状です。
18歳で大学に進学し、児童養護施設を退所した女性の声がありました。
経験談
「奨学金を借りて大学へ進学したが、親から虐待を受けていたため生活を共にすることはできず、経済的な余裕がなく住まいがすぐに見つからなかった。施設からは自立を求められていたので、施設の職員や友人に連絡を取りづらく精神的に追い詰められた。結果、休学して奨学金が打ち切られ、中退せざるをえなかった。」
児童養護施設は、児童福祉法に基づいて原則18歳、最長でも22歳で施設を退所し、自立が求められます。そのため、
- 退所後に頼れる大人が周りにいない
- 経済的な不安があり進学を選択しづらい
このような現状が、進学率の低下につながっています。
退所後の孤独感についての問題
このように、退所後に孤独感を持つ方もいます。また、退所後に親からお金を搾取される、安定した就労が難しく路上生活者になったというケースも。
退所後に頼れる大人が側にいないことが問題視されています。
慢性的な職員不足
「ひどい」「職員 おかしい」といった言葉は、児童養護施設の職場環境の影響もあります。ある施設では、職員1人で20人ほどの子どもを見ているところもあるほど。
児童養護施設の職員不足は深刻な問題です。
慢性的な職員不足は、
- 入所する子どもが増えたこと
- コロナによる離職で新規採用が追い付かないこと
が原因と考えられています。また、職員の離職率が高いことも、今後の児童養護施設の運営に不安が募ります。
児童養護施設をサポートする取り組み
児童養護施設の運営は、利用者の増加に伴い多種多様な問題が浮かび上がっています。このような問題を解決するため、国による改善策や、さまざまな団体が児童養護施設をサポートしています。
児童養護施設の自立支援の年齢制限撤廃へ
2022年2月厚生労働省は、児童養護施設や里親の家庭で暮らす子どもに対し、
原則18歳までとする自立支援の年齢制限を撤廃する方針を決めました。(参照:NHK NEWS WEB)
退所後は金銭面だけではなく、新しい生活のための住民票や戸籍の手続き、年金、健康保険の加入といった知識も必要になります。年齢制限を撤廃することで、孤立感もなくなり、いつでも相談相手がいるという環境を持ち続けられるのは、子どもたちにとって安心感につながるでしょう。
児童養護施設の小規模化及び家庭的養護の推進
厚生労働省では、
児童養護施設の小規模化及び家庭的養護の推進
を打ち出しています。家庭的な環境で養護する「家庭的養護」や少人数制の小規模施設は、
- 子どもの生活に目が行き届く
- 個別の状況に合わせた対応が可能
- 集団生活によるストレスが少ない
- 子どもの生活が落ち着きやすい
- 家庭的な環境で自己肯定感を育める
といったメリットがあります。このようなことが推進されていけば、施設内のトラブルも最小限に抑えられるのではないでしょうか?
入所者の若者を支援する一般財団法人もある
(画像:一般財団法人教育支援グローバル基金)
一般財団法人教育支援グローバル基金では、「ビヨンドトゥモロー」というプログラムを打ち出し、さまざまな事情で社会経済的に困難な立場に置かれた若者を支援しています。この団体では、活動に賛同する個人や団体からの寄付金、助成金により運営されています。
- 親と離別した子ども
- 児童養護施設、里親家庭で暮らす子ども
- 生活保護受給世帯の子ども
このような子どもたちをサポートします。
奨学金プログラム
・進学のためのセンター試験検定料
・大学・短大・専修学校の入学検定料・受験料
上記の費用が支給されます。
問題点のひとつである「子どもの進路」をサポートできる環境が整っています。また、自立支援につながる取り組みとして、世間に理解を深めてもらうため、若者が抱える課題を社会に発信する活動も行っています。
公に発信できる機会があるのも、若者たちや施設にとって問題解決につながる行動ではないでしょうか?
児童養護施設の職員の確保と定着をサポートする団体も
(画像:チャイボラ)
NPO法人「チャイボラ」では、児童養護施設の職員の確保と定着それぞれの観点から、施設をサポートする活動を行っています。施設で働く人を増やすために、大学への出張授業やSNSを活用して施設の存在や働く魅力を広く発信。
また、定着率を上げるために、
- 職員向けのオンラインセミナー
- 社会的養護施設職員専用の相談窓口を設置
このように、働きやすい環境づくりに役立てています。このような取り組みは、慢性的な職員の人員不足解消だけではなく、施設生活をする子ども達の心の安定につながるでしょう。
まとめ
児童養護施設に対する「ひどい」「職員 おかしい」という声を検証しました。「ひどい」「職員 おかしい」と言われるのは、児童養護施設に入所する子どもに対するひどい事件や、職員に対する暴力が実際にあったことが要因だと考えられます。
また、子どもから暴言を吐かれる、仕事がきついといった職場環境に対して「職員 おかしい」と感じている人も一部いるようです。子供たちが安全に暮らせる児童養護施設には、課題が多くあることが分かりました。
問題点を改善するため、厚生労働省や各団体ではさまざまな対策が行われています。NPO団体では支援するためのクラウドファンディングも行っており、困っている子どもたちに間接的ではありますが、手を差し伸べることも可能です。
子どもたちの住居環境がより整い、安心して児童養護施設で暮らせる日々が来ることを願っています。